私が子どもだった頃,入学式・卒業式ではほとんどのお母さん達が着物だった。ふだんも着物で通すお母さんも,クラスに1人か2人はいた。お祖母ちゃん達となると,もうほぼ100%が着物だった。
割烹着や前掛けに下駄をはき,買い物カゴをぶら下げてカタコトと音をさせながら通りを歩いていた彼女達。スーパーマーケットというものが駅前にできてからも,近所には八百屋・魚屋・肉屋・金物屋…食料品や日用品を扱う店が並んでいて,遠くへ行かずとも便利に生活ができた時代。
季節に合わせ,夏は白っぽい着物に素足。冬は黒っぽい着物に上っ張りを着て別珍の足袋,室内でもフワフワの首巻きをしていた。いつも懐からキセルと包みをスッと取り出し,葉っぱを詰めておいしそうに吸っていたのは,親戚のお祖母ちゃん。会う度に「お茶っこ,飲みにござい」と誘ってくれた近所のお祖母ちゃんは,いつも衿足に手ぬぐいを掛けていた。
敗戦後もうすぐ60年,私が生まれてから50年も経っていないのだが,今や回りの風景以上にお祖母ちゃん達の服装はすっかり変わってしまった。ここは<日本>なのだが…。
着物をふだん着るようになると,生活感覚が少し変わる。徒歩や電車・バスでちょっと行ける程度の生活範囲内で,丁寧につましく暮らす感覚になるのだ。20年後,私がホントのお祖母ちゃんになった時,あの頃のお祖母ちゃん達の姿に似ていたら,とても嬉しい。(2003年4月21日)